【きっかけ編 中学生時代】
―野球が下手すぎる…―
僕は中学で、野球部に入りました。
でも、特別に「野球がやりたい!」
っていうのでもなかった。
僕は小学校の頃、地域のスポーツ少年団のようなところに
所属してソフトボールをやっていたのね。
仲のいい友達もいたから、中学に上がって
部活もその延長線上で野球部に入っただけだ。
いい仲間もいるし、それなりに楽しめるかなと
思っていたんだ。
ところでさ、みんな中学生ぐらいになると
自意識も高まるし、
物事の優劣もシビアによくわかるようになるよね。
だから、中1の夏休みに入る前には
僕にもわかってしまう。
「オレ、みんなと比べて野球がほんっとにヘタクソだな~!」
目が悪くなって乱視が酷くなる時期も重なったね。
フライなんか上がっても、ボールがさ、ブレて見えないわけよ。
こっちに打たれても、ボールが取れません(笑)。
しかし、僕は根がまじめだから(笑)
毎晩けっこう素振りとか走り込みとか
自主練習を一人でこっそりやってたんだ。
それでもこのありさまだ。
「こりゃ始末におえないねぇ」
と自分で思った。
さらに、監督によるお情けの選手交代で、
せっかくバッターボックスに立たせてもらったのに、
緊張しすぎて、
急性胃腸炎で倒れちゃったりするんだよ(笑)。
病院に行ったら、緊張のストレスで腸が
グリングリンにねじれていました。
僕が部活で活躍する機会は本当になかった(笑)。
なんていうか、その、ダサいしさ、
気がついたら野球をやりたいって気持ちでもないことが
はっきりわかっちゃった。
勉強も抜群にできるわけでもなく、
部活でも活躍できないし、
ルックスだっていいわけじゃないから、
僕の中学生としての放課後ライフはダメダメなんだな。
そこで「へへへ」って笑うほどの柔軟さや卑屈な感じも
僕にはなかったので、
自分に合う楽しいことを何か探そうって思った。
―推理小説にハマる―
小学生の頃から本を読むことが好きだった
(でも、夏休みの読書感想文は6年間、全部親に書い
てもらったけどね。本を読んだときのインプットとアウト
プットの力は、実は異なると思うのだけれど、どうだろう)。
小学校の高学年の頃には推理小説にハマり始めた。
コナン・ドイル、エラリー・クイーン、アガサ・クリスティー
といった古典的作家の作品をズンズン読んでいった。
ちょうどそのころ、『名探偵コナン』も
漫画やアニメで出始めたころだったと思うなぁ。
『名探偵コナン』も漫画を読んでいたよ。
さらに、中学生になると
江戸川乱歩の少年探偵団・怪人二十面相のシリーズや
怪奇的な小説や、
『八つ墓村』からはじまって
横溝正史の金田一耕助シリーズを読んでいた。
イケてない放課後ライフをおくる僕は、
推理小説にのめり込んだり、
音楽(洋楽)をかっこつけて聴き始めたりするわけだ(笑)
(初めて買った洋楽CDはジャミロクワイだった。)。
でも、本を読むおもしろさ、
というか謎解きのおもしろさに夢中になった。
だから、だいたい本の帯や解説にミステリーと書いてあれば、
ともかく手に取っていました。
そしてついに出会ってしまう。あの本に。
―哲学の世界へようこそ―
ヨースタイン・ゴルデル著、池田香代子 訳 須田朗 監修
『ソフィーの世界 哲学者からの不思議な手紙』 NHK出版、1995。
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1995年、当時新刊本のこの本の帯には、
「哲学ミステリー」って書いてあったんだ。
「哲学のほうは知らんけど、ミステリーって書いて
あるしね、こんなに分厚い本は読み応えがありそうだ!」
と思って、親にねだって買ってもらったのを覚えている。
はい、この本で僕の一生決まっちゃいました(笑)!
この本は簡単に言えば、哲学的な謎をソフィーという
14歳の女の子と解き明かしながら考え、
自分たちの「存在」の謎を追いかける
ミステリー形式の哲学ファンタジーだ。
今読んでも、ものすごくおもしろいし、よくできている。
中学1年生の冬、数週間かけてこの本を読み終えた僕は、
完全に頭をガーンと殴られたような
衝撃を受けていた。金属バットで殴られるより、
ものすごい衝撃だった。
なんだ、これは!哲学って、なんだ!?
学校じゃ、一度も聞いたことのない話だぞ。
こんなこと、考えたこともない。
哲学は絶対おもしろい!
これをオレは一生やっていこう。
一冊の本との出会いで人生が決まっちゃう
ことってあるんですね。
はい、この本のおかげで良くも悪くも僕は今にいたっています。
そこから、僕は哲学の入門書を読み漁り、
親や友達にも哲学、哲学と言い出し、
頭のおかしくなった子だと思われる
ようになりました(笑)。
勉強もそこそこで、部活でも活躍できず、
放課後がつまらなくなるのを避けるために読んだ本の中に
『ソフィーの世界』があったんだ。
もし、僕が勉強もできて、部活でも活躍していたら、
本を読んでいなかっただろうね。
だから、哲学に興味を持ったきっかけは、
ダメダメな中学生の放課後ライフだったわけです。
つづく
佐藤陽祐
博士(哲学)中央大学
雄飛教育グループ 潜龍舎代表・主幹講師
中央大学文学部非常勤講師(2017年4月より)
中央大学文学部哲学科卒業
中央大学大学院文学研究科哲学専攻修士課程修了
同大学大学院文学研究科哲学専攻博士課程修了
専門:A.N.ホワイトヘッドを中心とした現代哲学。
人間の経験、意識、言語といった問題に興味があり、
集中的に取り組んでいます。